この記事ではジュゴンが取得している認定作業療法士という資格と、認知症ケア専門士という資格について紹介してきます。
作業療法士と言っても、体から心まで様々な専門分野があり、それぞれの作業療法士がどんな事を得意としているのかわかりづらいですよね。
そのわかりづらさを解決するために、今回は私自身の経歴や得意分野を書きます。
認定作業療法士や認知症ケア専門士という資格内容を知って、ジュゴンの使い方(取扱説明書?看板?)をイメージしてもらい、皆さんの身近な作業的な困りごとの解決に役立っていきたいと思います。
ジュゴンの専門知識と経験である認知症作業療法について
ジュゴンの専門は認知症に対する作業療法です
研修では地域に開かれた様々な研修に参加しました。最初に働き始めた地域が田舎だった為、そのような地域で予防的に先駆的な取り組みをしているところはないかと地域の様々な研修会に参加しました。中でも日本精神科看護協会で行われたカンフォータブルケアという認知症ケア技法の研修会が印象に残っており、その研修を受けて自分の病院でもそれらの実践・研究を行いました。
認知症ケアについては入院〜通所まで様々な形で経験し、地域の中で認知症の人でも役割がある社会にすることが出来るようにデイサービスに週に数回行っていた時期もあります。
特にケースで多いのはBPSD(行動心理症状)が強く出現した人
認知症というと記憶の障害のイメージが強いかもしれません。朝食べたもの(ご飯・味噌汁・漬物)を忘れてしまうのは物忘れ、朝食べたというエピソードを忘れてしまうのが認知症の記憶障害です。だから飯はまだかと何度も聞いてくるのですね。それを否定すると悲しい気持ちになったり、反対に「まだ食べてないぞ!」と怒鳴ってくる人もいます。怒鳴るですめば良いですが、手が出て暴力になってしまうことも・・・。そんな心理(イライラ)と行動(暴言・暴力)などの症状を緩和することを主として行なっていました。
回想法(懐かしい記憶・作業)を用いて、オーダーメイドな作業を提供します
BPSDが強く出現する人は、不安や悲しみ無力感などの様々な心理的な葛藤を抱えています。そのような状態になるために、安心できる場所を探して徘徊「家に帰る」などと言ったりします。しかし、体に残った記憶(自転車の乗り方、料理のやり方、ノコギリの使い方)などは残っている事が多く、その様な場面ではその人は認知症で手を焼く人から、ジュゴンにとってお師匠さんの様な存在になります。そのように必要とされ、今やっていることで誰かに貢献していると感じられる瞬間が最高の作業療法の瞬間となり、安心につながっていきます。
ケース紹介【経験した患者さんを組み合わせて架空の人物です】
昭和初期生まれの女性患者さんで非常に難聴がある方でした。方言も強く聞き取りにくいことはあり、夕方になると家族の夕食を作らなければいけないと言って、不安定になることが多い方でした。その方に対しては耳が聞こえにくいこともあり、聴覚以外の様々な感覚を導入しました。例えば視覚的には、
この顔→( ◠ ‿ ◠ ) 笑っているように見えますよね?
この顔は?(`へ´ ) 怒っているように見えませんか?
目尻を下げて、口角を上げただけで人は相手が笑っていると認識する様になっています。腹の底でどのように思っていても、その様に表情を作って接することや、オーバーリアクションで手を振ることや握手をすること、ハイタッチをするなどのコミュニケーションを取ることで心理的な不安定さがとても減りました。
またそれらは皮膚への感覚(触覚)へもアプローチしています。とても礼儀正しく規則正しい性格をしていました。昔気質な頑固なおばあちゃんのイメージです。その為、自分自身の身だしなみなどには注意を払っており、心地よい温かさの蒸しタオルなどを朝手渡すと、顔や手をしっかりと綺麗に拭き、ニコニコとされていました。そのタオルも「こんな汚いの自分で洗うからえぇわ」と言ってその様な謙虚さも持ち合わせていましたが、それらを時間がないと無理に奪い返そうとしてしまい、またトラブルになるのでその様な場合には一旦時間を置いてから、再チャレンジします。
その場合には上手くいことがあります。先ほどはダメだったのに時間を置くとよくなるのは、認知症の記憶障害を有効に活用した関わりのポイントです。
治療計画やアプローチの方法の考え方について
その人の歩んできた歴史(ライフヒストリー)を知り、BPSDをひもとくシート使う
その人が歩んできた人生の歴史についてをライフヒストリーと言います。その中で何を大事にしてきたのか、得意だったことは何かあるのかなど聞いていきます。本人から聞けない場合には家族などから聴取したり、それも難しければ様々な作業療法の器具があるところに散歩にいきながら、どのような子供時代や青春時代だったのか話をしていきます。それらが個々の対象者に合わせた作業療法を提供するために重要となります。
作業療法士の田中寛之さんがHP上でアップしていますので、こちらからダウンロードしてください。
あとはパーソンセンタードケアといって対象者を中心として考えるのが認知症ケアの鉄則です。その中でなぜ今この人はBPSDが出現しているのかを検討する手法として、ひもときシートというものを使って検討します。ひもときシートはこちらからダウンロードしてください。
治療の進捗のモニタリングはMOSESとZaritを使用
作業療法や治療の効果が本当にあるのかを判定する為や、入院時とリハビリ後の差を把握するためには、MOSES(高齢者多元観察尺度)というセルフケア(身の回りのこと)、認知機能、BPSDを総合的に判定できるものと、家族の介護負担感を知るためにZarit介護負担尺度を用います。
個々のニーズを全て叶える事は医療の中で完結させることは困難
医療の中で働いていると自分のいる職場の中で全て完結させようと考えてしまうことがありますが、それはとても危険な思考だと今から自分自身を振り返ると思うことができます。国が出しているオレンジプランという施策の中にも、医療と介護が連携し必要なときに必要なケアを受けることとあり、医療も介護も流動的であるべきです。介護現場ではあまりにもBPSDが著しい人を見続けるのは、他の利用者にとってのデメリットが大きく、反対にBPSDが落ち着いているにも関わらず、ずっと入院をさせておくことはその人の本来の生きる力を奪うことになります。
患者や家族とのコミュニケーションについて
患者とのコミュニケーションの秘訣はバリデーションを使う
患者さんとのコミュニケーションで大切にしたのはバリデーションという技法を使いました。イメージとしては認知症の人の世界を否定せずに、飛び込んで一緒に過ごすパートナーになるというイメージです。
具体例:
認知症の方:夕飯の準備をしていないから、早く帰らなくちゃ!と話している場合には
ジュゴン:夕飯の準備で早く帰らなくてはいけないのですね。
認知症の方:そうなの。孫が野球部で甲子園を目指してて、娘は仕事が忙しいって言ってて!
ジュゴン:へぇー!それは自慢のお孫さんですね、お孫さん甲子園に出られると良いですね。お孫さんはおいくつなんですか?
認知症の方:もう25歳かな。はよ結婚すればえぇのにな。
介護者:そうなんですね。25歳で結婚ですか。認知症の方さんは何歳で結婚されたんですか?
など本当はお孫さんは40歳過ぎでひ孫までいる方でしたが、その人の記憶では様々な時代のお孫さんが出てきます。それを否定してしまうと会話にならず、料理や家事などのことになると余計に早く帰りたい気持ちにスイッチが入ってしまうので、少しずつ話を逸らしていきます。
家族とのコミュニケーションでは、介護の辛さを労い褒め、聞く耳がありそうな時にアドバイス!
認知症の方をケアする家族は、昼夜問わずに発せられる様々な訴えに非常に神経をすり減らしています。そのため、日々の関わり方や家族がいることでの意味についてをしっかりとポジティブに伝えることが非常に重要となります。専門職から言われる言葉は非常に家族としても嬉しく、褒める際には具体的にどんな関わりが良かったか、本人のいる前でもその言葉を代弁するのも良いと思います。施設に入所している患者の家族は、どこかで後ろめたい気持ちを持っている場合もあります。様々な季節の行事イベントでは家族を積極的に招待することや、患者さんから家族へ感謝を伝える機会などを設けることもあります。その準備のために作業療法では折り紙で小さなブーケを作ったりと準備をしています。失語がありなかなか言葉が出せない認知症の方がありがとうとつまりながらご家族に伝える姿に、ご家族も必死に涙を堪えている様子がありました。病院のレンタル衣類ではなく、そのご家族はいつも私服を持参してくれました。忙しく本人と顔を会わせずに帰ることもありましたが、その様な取り組み以降は少しずつ会っても、ご本人が笑顔で気付く様子が増えていました。
患者のモチベーション維持には、認知症の教育と予防の重要性を伝えることと、誰かの役にたつ役割と居場所があること
私は認知症の方に対して、あえて認知症はとても怖い病気である事を伝えます。具体的にご飯を食べたことを忘れてしまったり、それを家族や周囲から注意されたりすることもあります。そうすると普段頑固でなかなか体操や歌などに参加しない頑固な男性患者が、わしもそうやって言われるんや。と話してくださることがあります。その経験を共有し、じゃあ予防するにはどうすれば良いか、脳と体と心をしっかりと活性化することが重要で、人と関わること、難しくなくて簡単なことでも良いから脳を使うことで脳血流量が上がること、体操などをすることで脳の血管が詰まるリスクを減らせることや寝たきりを予防出来ることなどをお伝えします。心についてもやる気がないなぁと思っていると頭の機能が落ちていき、最初は心の病気だったのがいつの間にか脳の病気に発展してしまう可能性があることなどをお伝えします。その様にしてデメリット・メリットをしっかりと伝えること。あとは何か作品を作る場合でも、それが誰か人の為になるような仕組みを作ります。幼稚園の子達が木に触れて積み木ができるように木工をしよう。紙コップをそのまま手で持つと火傷をするから、革細工でホルダーを作ろうなどです。そうすると仕事として捉えてもらえ、患者さんもやる気に満ち溢れた目になっていきます。できればそれを実感できるように地域の人々との実際の交流や、その作品が使われている瞬間などを見ても良いと思います。イベント行事では患者さんも回る側ではなく、お店で働く側として行なってもらうこともあります。
専門家間の連携やチームワークについて
連携はカンファレンスや会議などで行うが、井戸端ミーティングが出来る人が増えると強くなる!
チームワークを高める為にはやはり接触頻度を高めることです。ちょっと廊下で会った時や、ナースステーションを通った時に声をかけれる人が増えていくと、連携は強固になります。病院や施設をあげてのイベントの際には積極的に参加して交流したり、同期が多く入職する際にはその友人や後輩などとも交流を広げていくと良いでしょう。
患者のケアの最適化には全職員が共通目標を言えること。相対可能性(みんな違ってみんないい)と連携可能性(どこでなら協力できそうか)を考える
ケアの最適化には全職種が合意できる明確な目標設定が重要だと考えられます。その為には専門職の予測する力が必要になりますが、それらは不確かな状況でも目標を設定して、それらが妥当だったのかチェックしていくP(計画)D(実行)C(評価)A(対策)のサイクルを何度も繰り返していくことが必要になります。カンファレンスやチームケア会議などを通して、どんどん交流することや、学生時代から行えることとしては日本医学生連盟などで日頃から他職種の人々の考え方を知ることが有効です。
日本医学生連盟はこちらから
しかし、どのような状況でも対立というのは必ず起きます。その様な時には信念対立解明アプローチを使用する事で、問題の見える化と対策が考えられると思います。
信念対立解明アプローチが学べる書籍についてはこちらから
学生や新人作業療法士へのアドバイスについて
3年ほど働くと自分のやりたい事が徐々に実現できる様になります。そして自分しか出来ないこと(アイデンティティ)を見つけようと必死になります。しかし、そこでこだわり過ぎないでください。その様な状況になったらできる限り早く、研究・教育に携わってください。そうすると自分がやっていたことは多くの人々が既に考えていたということに気づきます。しかし、その中でもやっていない事があります。そして、療法士の中でも行動できるのは一握りです。気づいた人から始めましょう。
ただ、患者さんを健康にしたければ、あなた自身が健康でいることが重要です。無理はしないように。あなた達の活躍を心からお祈りしています。
まとめ
今回は作業療法士に聞いてみたい事として、ジュゴンの専門分野である認知症作業療法を中心に紹介しました。何か質問したいこと、ご要望があればコメントまで!